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作者 |
歌 |
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藤原実方朝臣 |
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな 燃ゆる思ひを |
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藤原道信朝臣 |
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな |
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右大将道綱母 |
嘆きつつ ひとりぬる夜の 明くる間は いかに久しき 物とかは知る |
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儀同三司母 |
忘れじの 行末までは かたければ けふをかぎりの 命ともがな |
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大納言公任 |
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ |
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和泉式部 |
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの あふこともがな |
| 57 |
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紫式部 |
めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな |
| 58 |
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大弐三位 |
有馬山 ゐなの篠原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする |
| 59 |
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赤染衛門 |
やすらはで 寝なましものを 小夜ふけて 傾ぶくまでの 月を見しかな |
| 60 |
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小式部内侍 |
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立 |
| 61 |
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伊勢大輔 |
いにしへの 奈良の都の 八重ざくら けふ九重に にほひぬるかな |
| 62 |
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清少納言 |
夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ |
| 63 |
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左京大夫道雅 |
今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな |
| 64 |
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権中納言定頼 |
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々のあじろ木 |
| 65 |
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相模 |
恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ |
| 66 |
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前大僧正行尊 |
もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし |
| 67 |
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周防内侍 |
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ |
| 68 |
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三条院 |
心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな |
| 69 |
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能因法師 |
嵐吹く 三室の山の 紅葉葉は 竜田の川の にしきなりけり |
| 70 |
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良暹法師 |
さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこもおなじ 秋の夕暮れ |
| 71 |
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大納言経信 |
夕されば 門田の稲葉 おとづれて 蘆のまろ屋に 秋風ぞ吹く |
| 72 |
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祐子内親王家紀伊 |
音に聞く たかしの浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ |
| 73 |
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前中納言匡房 |
高砂の 尾上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ |
| 74 |
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源俊頼朝臣 |
憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを |
| 75 |
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藤原基俊 |
契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり |
| 76 |
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法性寺入道
前関白太政大臣 |
和田の原 漕ぎ出でてみれば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波 |
| 77 |
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崇徳院 |
瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ |
| 78 |
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源兼昌 |
淡路島 かよふ千鳥の なく声に いく夜ねざめぬ 須磨の関守 |
| 79 |
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左京大夫顕輔 |
秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ |
| 80 |
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待賢門院堀河 |
長からむ 心もしらず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ |
| 81 |
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後徳大寺左大臣 |
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる |
| 82 |
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道因法師 |
思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり |
| 83 |
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皇太后宮大夫俊成 |
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる |
| 84 |
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藤原清輔朝臣 |
永らへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき |
| 85 |
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俊恵法師 |
夜もすがら 物思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり |
| 86 |
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西行法師 |
嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな |
| 87 |
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寂蓮法師 |
村雨の 露もまだひぬ まきの葉に 霧たちのぼる 秋の夕暮れ |
| 88 |
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皇嘉門院別当 |
難波江の 蘆のかり寝の ひと夜ゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき |
| 89 |
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式子内親王 |
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする |
| 90 |
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殷富門院大輔 |
見せばやな 雄島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色はかはらず |
| 91 |
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後京極摂政
前太政大臣 |
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む |
| 92 |
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二条院讃岐 |
わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそしらね かわく間もなし |
| 93 |
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鎌倉右大臣 |
世の中は つねにもがもな 渚漕ぐ あまの小舟の 綱手かなしも |
| 94 |
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参議雅経 |
み吉野の 山の秋風 小夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり |
| 95 |
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前大僧正慈円 |
おほけなく うき世の民に おほふかな わがたつ杣に 墨染の袖 |
| 96 |
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入道前太政大臣 |
花さそふ あらしの庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり |
| 97 |
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権中納言定家 |
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ |
| 98 |
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従二位家隆 |
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける |
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後鳥羽院 |
人もをし 人もうらめし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は |
| 100 |
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順徳院 |
ももしきや 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり |